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The locus of the moon

The locus of the moon

記憶を探して(氷崎・葵)


アンティークショップ・レンの店主碧摩・蓮はある場所へと向かい歩いていた。
それは碧摩・蓮が頻繁に不思議な品物を手に入れる場所で少し変わった場所だった。
古い洋館の前にたどり着くと碧摩・蓮は呼び鈴を鳴らした。
と同時に扉が開き
「待ってたわよ、蓮。」
とその洋館「鏡の館」の主である由比真沙姫が現れた。
碧摩・蓮を居間に案内すると由比真沙姫はソファに座り用件を尋ねた
その問いに碧摩・蓮は珍しく言葉を濁しながら一つの品をテーブルの上に出した。
「電話で話したのはこのオルゴールさ。入荷したのはいいが返品が続いてね。」
ため息を深くつくと碧摩・蓮は真沙姫に向かい言い放った。
「あんたの所で手に入れた品だったと記憶しているけど、一体なんなんだい?買った人間皆が口を揃えて悪夢を見るって言うんだよ。売るにしても何とかしないとこっちの商売上がったりだよ。」
碧摩・蓮は真沙姫に向かい少し怒り気味の口調で言ってみせた。
真沙姫はオルゴールを手にすると少し微笑み
「悪夢ねぇ。そう思うならこのオルゴールの持ち主にはふさわしく無いって言う事ね。まあ、そのうち本当の主が現れるわよ」
どうも由比真沙姫は碧摩・蓮の言葉を聞き入れる気が無いようだ。
碧摩・蓮は由比真沙姫を説得し返品するという事をあきらめ鏡の館を後にした。
アンティークショップ・レンにたどり着き扉を開けようとすると碧摩・蓮の後ろから声が聞こえた。
「あ、あの」
碧摩・蓮はその人物と手に持っていたオルゴールを見つめた。
(この人物が真沙姫の言う本当の持ち主なのかねぇ)
由比真沙姫の言葉を思い出すと碧摩・蓮は
「まあ、お入りよ。話は中で聞こう。」
そう言うとその人物とともにアンティークショップ・レンの中へと入って行った。

ー アンティークショップ・レン ー

「リーゼさぁん、こっちでいいんですか?」
のんびりとした口調で氷崎・葵は水の女神リーゼに尋ねた。
「そうそう」
リーゼは氷崎・葵よりも少し前に出て氷崎・葵を先導していた。どうやらどこかに行くらしい。
「ところでたまにはリーゼさんの用事に付き合えって何するんですか?」
リーゼは少し微笑むと
「こないだ葵も恋したでしょ?私もちょっと恋を思い出してもいいかな?なんてね」
氷崎・葵は感心したような顔で
「へぇ~女神様も恋するんですかぁ」
と驚いてみせた。その言葉にリーゼは
「あら、私だって女神の前に女よ」
そう言うと氷崎・葵の周りを体にまとっているシフォンのような素材で出来ているドレスの裾をなびかせながらくるりと回ってみせた。
「ほへ~」
リーゼがくるりと回ったのを見ると氷崎・葵は気の抜けたような声を出した。
そして十数分経過。
目の前に妖しげな店が見えてきた。
「アンティークショップ・レン……」
氷崎・葵はぽつりと呟いた。リーゼは店をじっと見つめると
「おかしいわね、今朝まであった物が無いわ。どうしましょう」
リーゼは店の扉にかけてある「店主留守」という文字を見て頬に手をあてると困った顔をしてみせた。
そんなときだった店主らしき赤い髪の毛の女性が片手にオルゴールを携え、アンティークショップ・レンの扉に鍵を差し込むと扉を開きかけた。
リーゼはその様子を見ると氷崎・葵に
「葵お願い」
と言うと氷崎・葵に店主らしき女性に声をかけるよう促した。
「あ、あの」
氷崎・葵はおそるおそるその女性に声をかけた。
店主と思われる女性は動きを止め、氷崎・葵と手に持っていたオルゴールを見つめた。
その女性は少し考えると微笑み
「まあ、お入りよ。話は中で聞こう。」
そう言うと氷崎・葵にアンティークショップ・レンの中へと入るよう促した。
氷崎・葵とリーゼはその誘いを聞き店主と思われる女性とともにアンティークショップ・レンの中へと入っていった。


ー 呪われたオルゴール ー

「あたしの名前は碧摩・蓮。お嬢さんのお名前はなんて言うんだい?」
碧摩・蓮はカウンターにオルゴールを置くとその傍にあった椅子に座った。
リーゼは暗い店内を見回すと碧摩・蓮の傍にあるオルゴールを指差し
「葵、あのオルゴールの話を聞いてくれる?」
そう言うとオルゴールの傍まで近づいた。
すると碧摩・蓮が少し微笑むと
「ああ、やっぱりこのオルゴールなんだね。」
リーゼを見つめるとそう言い放った。
氷崎・葵とリーゼは驚くと互いに顔を見合わせたあと碧摩・蓮を見つめた。
「あなた、私が見えるの?」
驚きを隠せない表情でリーゼは碧摩・蓮へ尋ねた。
碧摩・蓮は周りを見回すと
「ここの商品を良くご覧よ。どれもただの代物じゃない。あたしが仕入れてきた不思議な商品ばかりさ。稀に精霊なんかが住んでいる商品もあるからあんたを見ても驚かないのさ。あんた方がお探しのこのオルゴールもその一つさ」
そう言うとオルゴールをそっとさすってみせた。
その答えを聞くとリーゼは氷崎・葵の傍に行き
「私の名前は水の女神リーゼ。そしてこちらは氷崎・葵」
リーゼが自分たちの紹介をするのを聞くと氷崎・葵は碧摩・蓮に思いきって聞いてみた
「そのオルゴールって一体なんなんですか?」
その問いに碧摩・蓮は少し困った顔になると
「そうだねぇ。何かが入っているらしいのは確かだよ。ただ今までこのオルゴールを買っていった人間皆が口を揃えて悪夢を見るって言うんだよ。購入先に聞いても「このオルゴールの持ち主にはふさわしく無いからだ」っていうばかりでこっちもどうしたものかと思っていた所なんだよ」
小さくため息をつくと碧摩・蓮はオルゴールを見つめた。
碧摩・蓮の話を聞いた氷崎・葵はリーゼの方を向くと
「リーゼさん、何か知ってるんじゃないんですかぁ」
とくびを傾げながらリーゼに聞いた。その言葉にリーゼは少し微笑むと
「ふふ、そうね。私が探していた恋の思い出はその中に入っているわ」
そう言うと碧摩・蓮の正面に現れドレスの裾を両手で持ち頭をたれた。
「碧摩・蓮、お願い致します。そのオルゴールを私に譲って下さいませんか」
その言葉に碧摩・蓮はしばらく動きが止まった。水の女神がオルゴールを買う。
そんな事が今まであっただろうか。
碧摩・蓮はしばらく考えると氷崎・葵とリーゼを見つめこう言った。
「わかったよ。本当の持ち主があんたなら、このオルゴールはあんたが持つべき物だよ。ただし条件があるよ」
碧摩・蓮のその言葉に二人は同時に
「条件?」
と言葉を発した。その言葉を聞くと碧摩・蓮は
「その中に何が隠されているのかそれをここで明かす。それだけの事さ」
少し微笑むと二人にそう提案した。
氷崎・葵はリーゼを見ると
「リーゼさん、どうしますかぁ」
と聞いた。リーゼは少し困ったように考え込んだ。そしてしばらくすると
「わかりました。それで私にオルゴールを譲って下さるのなら」
リーゼは碧摩・蓮に微笑みながら言った。その答えを聞くと碧摩・蓮はオルゴールから離れると氷崎・葵のいる場所まで移動した。
「交渉成立だね。そのオルゴールに何が入っているのか見せてもらおうかね」
碧摩・蓮は腕組みをするとオルゴールとリーゼを見つめた。

そして再会の時が訪れた。


ー 愛しい人との再会 ー

「出てきて愛しいあなた」
リーゼはオルゴールの傍に近寄ると愛しげにオルゴールを包み込んだ。
その瞬間、あたりには温かな色が溢れ出し暗かった店内は温かな色に包まれた。
そしてそこに溢れ出たのはリーゼと幸せそうに寄り添う男の神の姿。
庭園で歩く二人。
手を携えながら幸せそうに歩く二人。
そこにはリーゼとリーゼの愛した大地の神との思い出が詰まっていたのだった。
「リーゼさん、この人は?」
氷崎・葵は思い出に浸るリーゼに少し遠慮がちに尋ねた。
するとリーゼは手を胸に当て俯きながら静かに答えた。
「私の愛した大地の神。今はもうこの世界には存在しない方。二度とは会えない一番愛しい人よ」
そして続けて
「私がここに来たかったのは、この思い出に会うため。とても長い間会う事が出来なかったのよ」
そう言うととても幸せそうに微笑み氷崎・葵と碧摩・蓮向かい
「ありがとう二人とも。とても幸せな気分に戻れたわ」
碧摩・蓮はその言葉を聞くと
「もうオルゴールはあんたのもんだよ。これからはいつだって会えるさ」
リーゼを見つめそう言った。その言葉にリーゼは碧摩・蓮に向かい一言
「ありがとう」
そう言うと氷崎・葵に向かって微笑んだ。


ー 素敵なオルゴール ー

「じゃあ、帰ります。でも本当にお金いいんですか?」
アンティークショップ・レンの扉の前に立つ氷崎・葵は確認するように碧摩・蓮に尋ねた。
碧摩・蓮は手をひらひらと振ると
「ああ、気にしなくていいよ。あんな素敵な思い出を見せてもらったんだ。こっちがお代を払わなきゃいけないくらいだよ」
そういうと二人に笑ってみせた。その微笑みを見た氷崎・葵とリーゼは安心したように顔を見合わせた。
「気をつけて帰るんだよ」
氷崎・葵とリーゼはその言葉を聞くと頭を下げアンティークショップ・レンを後にした。

帰り道、氷崎・葵は抱えたオルゴールを大事そうにさするとリーゼに向かい
「良かったですね、リーゼさん。これでいつでも大事な人に会う事ができますねぇ」
氷崎・葵はのんびりとした口調でリーゼに微笑みながら話した。
リーゼも嬉しそうに微笑むと
「そうね、碧摩・蓮には感謝しても足りないくらいだわ。私はひとときでも良いと思っていたのだけれど」
そう言うとリーゼは空を仰いだ。
「本当は「呪われたオルゴール」じゃなくて「素敵なオルゴール」なんですね」
氷崎・葵は微笑みながらリーゼにそう話した。その言葉にリーゼも同意し、オルゴールを愛しげにさすった。

持つべき物に渡ったオルゴール。
これからは愛しい人との思い出とともにリーゼは暮らしていくだろう。

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